「介護の現場にもAIの時代が来ている」――そんな話題を耳にする機会が増えてきました。恵光会でも、日々のケアの質を高め、職員が利用者の皆さまと向き合う時間を大切にするために、こうした技術の動きに関心を持ちながら情報を収集しています。今回は、介護・福祉分野で広がりつつあるAI・テクノロジー活用の動向について、少しご紹介したいと思います。
なぜ今、AI活用が求められているのか
背景にあるのは、深刻化する人手不足です。厚生労働省などの推計では、2040年には全国で約57万人〜69万人もの介護人材が不足すると見込まれており、これまでのやり方のままでは立ち行かなくなることが予想されています。
また、介護職員が実際に利用者の皆さまとじっくり向き合う「直接ケア」の時間は、1日の業務のうち約5〜6割にとどまり、残りの多くは記録や報告、調整といった事務作業に費やされているのが実情です。この「本来のケアに使える時間」をどう増やすかが、業界全体の大きな課題になっています。
現場で広がるAI・テクノロジー活用
こうした課題を背景に、さまざまな形でAI・ICT機器の活用が進んでいます。いくつか例をご紹介します。
- 記録・報告業務の自動化:職員がスマートフォンに短く話しかけるだけで、AIが文脈を補い、記録の下書きを自動作成する仕組みです。ある施設では、記録にかかる時間が1人あたり約4割削減されたという報告もあります。
- 見守りセンサーによる事故防止:夜間の起き上がりや転倒の予兆、体調の変化をセンサーで早期に察知する仕組みです。導入した施設で夜間の転倒事故が前年比6割以上減少した例や、国の実証事業では見守り機器の活用により職員1人が対応できる利用者数が4割近く増えたという結果も報告されています。
- シフト・送迎ルートの最適化:訪問や送迎の複雑なスケジュール調整をAIが自動で算出する仕組みです。調整にかかる時間が4割ほど短縮され、職員の「気持ちの余裕」にもつながったという調査結果があります。
いずれも共通しているのは、「AIが職員に取って代わる」のではなく、「職員の負担を軽くし、本来のケアや対人支援に、より多くの時間と気持ちを注げるようにする」ための道具として位置づけられている、という点です。
国としても後押しされている分野
厚生労働省は、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」をなくすための生産性向上ガイドラインを示し、介護テクノロジーの導入や役割分担の見直しを後押ししています。近年では、こうした取り組みが介護報酬の加算という形でも評価されるようになり、実際に特別養護老人ホームの5割前後がすでにこうした加算を取得しているとの報告もあります。加算を取得している事業所では、そうでない事業所に比べて職員の月あたりの残業時間が短くなる傾向も見られており、テクノロジー活用が現場の働きやすさにもつながりつつあることがうかがえます。
なお、こうした制度の多くは、テクノロジーを導入するだけでなく、安全対策や業務改善を継続的に話し合う委員会の設置とセットで進めることを求めています。「便利な機器を入れて終わり」ではなく、現場全体で使い方を考え続けることが前提になっているという点は、私たちも大切にしたい視点です。
忘れてはならない、個人情報への配慮
福祉の現場で扱う情報――病名や服薬・通院の状況、生活歴やご家族の状況、相談内容など――は、個人情報保護法上とりわけ慎重な取り扱いが求められる情報です。誰もが使える無料のAIサービスに、こうした内容をそのまま入力してしまうと、意図せず情報が外部に渡ってしまうおそれがあり、注意が必要だとされています。
そのため、実際にAIを活用する際には、氏名や具体的な状況を伏せて抽象化した上で文章の整理や表現のアシストに使う、組織として認めたツール以外は使わないというルールを徹底する、そしてAIが作った文章はあくまで下書きとして扱い、最終的な確認と判断は必ず人が行う――といった原則を守ることが欠かせません。
それでも変わらない、福祉の本質
技術がどれだけ進んでも、利用者の皆さまお一人おひとりの表情や言葉の裏にある想いに気づき、寄り添い、温かい言葉をかけること――これは、これからも人にしかできない役割だと私たちは考えています。AIによって生まれた時間や心の余裕を、まさにそうした人と人との関わりに充てられるようにすることこそが、技術を取り入れる本当の目的だと受け止めています。
最後に
恵光会は、こうした技術の動向と、個人情報保護をはじめとする慎重に扱うべき課題の両方にアンテナを張りながら、「利用者の皆さまと職員が、より良い形で向き合える環境をつくる」という目的のために、テクノロジーとの付き合い方を考えていきたいと思います。今後、具体的な取り組みについてもこのブログでご紹介できればと考えています。